小説家食堂

小説、エッセイに登場するあの料理を食べる

ルコント(色川武大『甘くない恋人たち』)

“街で買えるケーキでは、ホテルオークラのものが、やはりよかった。これは定説のようになっているから私が記すまでもない。このオークラ出身のフランス人の菓子職人が六本木に出した“ルコント”といったかな、ここもオークラ風だ。”(色川武大『喰いたい放題』の「甘くない恋人たち」より)

ルコントのお店正面

広尾駅から徒歩2分という好立地の「ルコント」。1968年に六本木で創業した日本初のフランス菓子店なのだそう。2010年の閉店を経て2013年に再オープン。広尾を本店に、日本橋三越店、銀座店、加えて、遠方のかたにうれしいオンラインショップの計4店舗展開。

 

ギャンブル小説で有名な色川武大(1929-1989)のエッセイから。読みは「いろかわ たけひろ」です。代表作に直木賞受賞作『離婚』がありますが、今なお一般的に知られるのは、阿佐田哲也(あさだ てつや)のペンネームで発表し映画化もされた『麻雀放浪記』あたりではないでしょうか。色川さん自身、プロ雀士のような麻雀の腕前を持っていた方で、人生の一時期ずっと、卓を囲み徹マンを共にした吉行淳之介も『色川武大追悼』のエッセイの中で、彼の麻雀の才能について触れています。ちなみに、阿左田哲也とは“朝だ徹夜”に由来するそう。

 

そんな色川さんの『喰いたい放題』というエッセイは、豪快な食への執着がみなぎる快作で、冷やしワンタンといった庶民の味から、高級スーパーマーケット、食材へのこだわりやエピソードが綴られています。

たとえば、海老はプツンとして歯ざわりが良く、天ぷらは美味だが天丼ではできれば抜きでほしいといった好みから、イギリスではじゃがいもは貧乏人の食べ物だからフレンチフライやらジャーマンポテトやら、他国の名物のごとく名をつけて食すといった小話など。


強い執着を感じる一節としては、まどろんでは起きるごとにふと浮かんだ食べたいものを書き出して、その変遷、こってりに傾いたりあっさりに傾いたりに唸る描写なんかがあったりします。

 

エッセイには店舗名や場所までよく記してあるのですが、色川さんに突如、睡魔に襲われる持病があったことも関係しているようで、備忘録をかねていたのかもしれません。この病気はナルコプレシーと言われ、日中において場所や状況を選ばず起こる強い眠気の発作を主な症状とする脳疾患(睡眠障害)だそう。

ナルコレプシー - Wikipedia

どれだけ大変な症状だったかというと、まとまった睡眠もできないそうで、本作でも“昼夜べったり起きている、というか、昼夜べったり居眠りをしている”という症状を訴えていて、対談に遅れまいとうんと早く自宅を出て山手線に乗るも、目的駅を通り過ぎては戻り、通り過ぎては戻りを繰り返して、大遅刻してしまったエピソードを紹介しています(終電で終点まで行っちゃった、というサラリーマンあるある程度は比べたらかわいいものです)

 

いずれにせよ、よもや後世の読者が、こだわりの味覚を追体験できる手がかりにするとは、思ってもいなかったかもしれません。

 

ルコントの看板

ナショナル麻布を背にして歩くと見えるこの看板が目印。

 

シンプルな包装

シンプルな包装。

 

スイーツ3種

左から、マドレーヌ ¥230、フルーツケーキカット ¥300、フリアン ¥230 すべて税抜

 

フルーツケーキ

ルコントの代名詞であるフルーツケーキは、ラム酒に漬け込んだドライフルーツがビターな味で、お酒の香りが鼻を抜けます。生地はしっとり。 こういうケーキが美味しいって、大人の特権です。
砂糖抜きのストレートのコーヒーや紅茶、はたまたウイスキーにも合いそうです 。

 

ショップカード

ショップカード。インスタやってるみたいです。老舗でも今風です。

 

喰いたい放題 (光文社文庫)

 喰いたい放題 (集英社文庫)

新装版 離婚 (文春文庫)

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麻雀放浪記〈1〉青春篇 (文春文庫)

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麻雀放浪記 : 1 (アクションコミックス)

麻雀放浪記(一) 青春編 (角川文庫)

麻雀放浪記  ブルーレイ [Blu-ray]

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